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福岡高等裁判所 昭和52年(ネ)266号 判決

控訴人

破産者

昭和重工株式会社

破産管財人

伊吹幸雄

控訴人

時津鶴雄

外二名

右四名訴訟代理人

柴田國義

松永保彦

被控訴人

新井博子

右訴訟代理人

尾崎陞

外三名

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

被控訴人が、破産者昭和重工株式会社に対し、長崎地方裁判所昭和二九年(フ)第四号破産事件につき、約束手形金元本債権一、八五〇万円及びこれに対する利息金債権二五万五、九六四円の破産債権を有することを確定する。

二  被控訴人のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを一〇分し、その一を被控訴人の負担、その余を控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人の請求原因並びに控訴人らの通謀虚偽表示及び悪意の抗弁に対する当裁判所の判断は、次のとおり付加し、改めるほか、原判決説示の理由一ないし五と同一であるからこれを引用する。

1〜2 〈省略〉

3 同一七枚目表七行目の「こと、」の次に「尤も、(一)ないし(四)及び(六)ないし(九)の各手形、(一)の小切手は、原告において昭和四六年六月二二日以前に趙畢順から譲渡を受けていたものであるが、その後いずれも不渡となつたため、これを同人に預けていたものであること、」を加える。

二次に控訴人らの消滅時効の抗弁につき判断する。

本件各小切手の各支払呈示期間経過後、それぞれにつき時効完成期間である六か月が経過していることは、前記甲第二〇・第二一号証、乙第一一号証の七に徴し、暦算上明らかであるところ、被控訴人が、右各時効完成期間経過前の昭和四六年一〇月五日、長崎地方裁判所に係属中の昭和重工に対する昭和二九年(フ)第四号破産事件につき、破産債権者として右各小切手債権及びこれに基づく利息債権を届出て、翌昭和四七年四月二七日の債権調査期日において、控訴人らから右各債権につき異議を申立てられたことは、引用にかかる原判決説示の理由に記載のとおりであり、被控訴人は、本訴において、同各債権の確定を求めているものである。

ところで、破産債権者は、破産裁判所に対して債権の届出をすることによつて、初めて手続上の破産債権者となつて財団からの配当にあずかり、また、債権者集会における議決権をもちうることとなるのであるから、右届出は、まさしく破産手続参加にほかならず、一種の裁判上の請求として時効中断の効力を生じ、届出が徹回されない限り、その効力は破産手続終了まで存続するものというべきである(民法一五二条)。しかしながら、右債権の届出が時効中断の効力を生ずるものとされる所以は、それが破産債権者の破産裁判所に対する権利行使であり、かつ、債権調査期日において破産管財人及び他の債権者から異議がないときは、届出にかかる債権が債権表に記載され、それは破産債権者の全員に対し確定判決と同一の効力をもつに至る(破産法二四二条)ことが予定されているからである。ところが、破産債権者の届出債権について、破産管財人及び他の債権者から異議があつた場合には、当該債権者が異議者に対して債権確定の訴を提起し、かつ、配当手続における所定の期間内に右訴の提起を破産管財人に証明しない限り、当該債権者は、当初から債権の届出をしなかつた場合と同様に、配当からも除斥されることとなるのである(破産法二六一条)。

かようにみてくると、破産債権者の届出債権について、債権調査期日において破産管財人及び他の債権者から異議があつた場合には、届出は実質上その効力を失うという意味において、民法一五二条にいう「其請求ガ却下セラレタトキ」に該当するものとして、時効中断の効力を失うものと解するのが相当である(なお、破産債権者の提起した債権確定の訴が却下された場合も、同条にいう「其請求ガ却下セラレタトキ」に該当することは、言を俟たないところである。)。

従つて、被控訴人の本件小切手債権については、控訴人らから異議が述べられた昭和四七年四月二七日の債権調査期日の翌日から起算して六か月以内に訴の提起等他の強力な中断事由に訴えられない限り、右期間の経過により消滅時効が完成するというべきところ、本訴である右債権確定の訴が提起されたのが右期間経過後の昭和四八年三月二〇日であることは本件記録により明らかであり、かつ、右債権につき他の中断事由に訴えられた旨の主張立証のない本件においては、右債権は、同年四月二八日から六か月後の同年一〇月二七日の経過と共に時効により消滅したものというのほかなく、結局、控訴人らのその余の抗弁について判断するまでもなく、被控訴人は、昭和重工に対し、被控訴人主張の小切手金元本債権及びこれに対する利息金債権を有しないものというべきである。〈以下、省略〉

(斎藤次郎 原政俊 寒竹剛)

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